無線の据え置き型ホームルーターが、このところ活況を帯びています。これは日本だけの話では無く世界各国で増加していて、光回線等の有線を使ったインターネット回線の代替手段として用いられています。
携帯電話に使う電波は年々進化を重ねていて、ベストエフォート型と呼ばれる理論上速度の値は、既に浸透している4G(LTE)でも、現在光回線の主流である1Gbpsを超えてきています。当然、次世代の5Gでは、普及に伴いもっと大きなメリットが出ると考えられます。
据え置き型無線ホームルーターでは、ソフトバンクの「SoftBank Air」シリーズが、2020年の調査ではシェア7割(72.1%)を占め、圧倒的な人気の独走状態のマーケットです。
そこに、2021年8月6日「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」をauが発売して、NTTドコモは2021年8月27日から、「ドコモhome 5G HR01」の発売を開始しました。
NTTドコモの参入で、3大キャリア全てが、据え置き型無線ホームルーターのマーケットに出そろいました。5Gを武器に王者「SoftBank Air」に挑む、「ドコモhome 5G HR01」と「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」を比較して解説します。
後出しNTTドコモの戦略
NTTグループは、日本の光回線のパイオニアです。光ファイバーケーブルの敷設を全国に広げた、圧倒的なシェアを持つ「フレッツ光」回線を運営しています。
NTT東西としては、家庭へのインターネット回線は光回線が軸であり、無線を利用したインターネットは、スマートフォンがメインだと考えていた節があります。そのため、据え置き型無線ホームルーターだけでなく、モバイルWi-Fiルーターにも消極的な姿勢が目立っていました。
据え置き型無線ホームルーターとしては、「ドコモおくダケWi-Fi」のサービスを行っていましたが、あくまで法人向けであり、主に店舗のサービス向上・待ち時間対策等に用いられていて、個人が光回線の代替として利用する事は想定されていませんでした。
「ドコモhome 5G HR01」の発表は、2021年5月19日に行われたNTTドコモ夏モデル発表会の席上です。
壇上のNTTドコモ社長 井伊基之氏は、「自宅内の需要が非常に高まるということで、現在の「ドコモ光」だけではなくて、工事不要で便利な、即開通できるWi-Fi環境を提供しようと考えた」と述べています。
また、「拡大中の5Gのエリアで繋がると高速になる。最高速をなるべく提供したいということで、より速い環境がいいと思っている」とも述べています。
根底にあるのは、危機感です。
自社の光回線で全国を網羅している企業は、実はNTT東西以外には有りません。ライバルのauを展開するKDDIは、一部で自社が敷設した光回線も有りますが、多くはNTTの光回線の利用されていないダークファイバー網を借りています。
SoftBank光は、NTT東西が運営するフレッツ光回線を使った「光コラボ」です。NTTグループには、光回線を持っている安心感が有ったことが、無線方式のインターネット供給において、スピード感に欠ける経営判断に繋がっていたことを、社長自ら認めています。
しかしスピード感だけで無く、一体感を持つSoftBankが「SoftBank光」を使って顧客の囲い込みを行うだけでなく、ニーズの高まっている据え置き型無線ホームルーターマーケットで一強になっていて、docomoには無い月額料金の安いサブブランドのY!mobileを積極的に組み合わせてシェアを拡大していく事に脅威を感じたことが、危機感に繋がっています。
これで、SoftBank Airが未だ手を付けていない5Gを武器に、戦いに挑む姿勢が明確になりました。もう一つは、光回線の圧倒的なシェア率と、導入時期の早さがもたらす、回線スピードの問題です。
マンション集合住宅のボトルネック
NTT東西の「フレッツ光」は、光回線のサービス提供開始から、最も多くのユーザーに対してサービスを提供しています。そのため、多くのマンションに引き込まれている回線は、圧倒的にフレッツ光が多くなっています。
光ファイバーケーブル回線から直接繋ぐ「戸建てタイプ」では、問題無く「フレッツ光」の本来の能力を使えますが、マンション集合住宅では事情が異なります。
マンションで光回線を利用する場合、基本的には建物の共有スペースに引き込まれている回線を使います。「光ファイバーがMDFまで来ている」マンション集合住宅で、MDFから各戸への配線は、マンションによって異なります。
マンションの回線方式
大きく分けて、3つの方式があります。
(出典:NTT東日本公式ページ*一部省略しています)
光配線方式
新しいマンション集合住宅に増えている方式です。MDF内のスプリッタで振り分けられた回線は、そのまま各戸まで光ファイバーケーブルで繋がれて、各戸内に回線終端装置を設置します。
もっとも安定して速く、マンション集合住宅において現状はベストな方式です。1Gbpsの光回線が来ていれば、理論上安定して1Gbpsの速度が出ます。この環境下にある、フレッツ光回線ユーザーの計測は、本来のポテンシャルを表している数値になります。
VDSL方式
比較的古いマンション集合住宅に見られる方式です。MDF内に有る集合型回線終端装置の先にVDSL集合装置が設置されていて、そこから各戸までは電話線に変換して回線を結んでいます。各戸では、電話用モジュラージャックからVDSL宅内装置に入り、ルーターに接続します。
1Gbpsの光回線が来ていても、残念ながらこの方式での最大通信速度は、上りも下りも100Mpbsしか出ません。戸数の多いマンションでは、この方式で同時に回線使用者が増えれば、回線速度は一層落ち込むケースが多々あります。
この環境下にある、フレッツ光回線ユーザーの計測は、最高の値でも100Mpbsが上限になります。回線本来のポテンシャルを表している数字にはなりません。
LAN配線方式
ちょっと前に建てられたマンション集合住宅に多い方式です。MDF内に設置された集合型回線終端装置から、各戸にLANケーブルで繋ぎます。各戸ではLAN用のモジュラージャックが備えられ、ルーターに接続します。
こちらは導入された時代で、ケーブルが対応しているスピードが異なります。比較的新しい時代に導入されているケースでは1Gbpsの元回線に対して1Gpbsの速度が理論的に出る事も有りますが、古い時代に導入されている場合は100Mbpsの速度しか出ないケースも有ります。
ボトルネックを解消する方法が無い
光配線方式は問題ありませんが、それ以外の方式では1Gbpsの回線が元まで来ていても、最高速度が100Mbpsや200Mbpsに制限される事で、実際にユーザーが利用する速度は低くなります。
巷で「NTTは回線速度が遅い」と言われる事がある、大きな原因となっています。
NTTでも事態を当然把握していますが、建物の構造の問題もあり解決することは物理的に不可能です。仮に、光回線の速度が10倍になっても、当該マンション集合住宅では速度の向上は理論上望めません。
新世代の5Gを利用する、高速な据え置き型無線ホームルーターは、各戸までの配線方式は関係なく回線スピードが享受出来る手段として、NTTの新たな提示である側面があります。
両者の月額料金戦略
NTT「ドコモ home 5G HR01」とau「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の月額料金戦略について見ていきましょう。
NTTの発表
前述の2021年5月19日に行われた、NTTドコモ夏モデル発表会に戻ります。
「ドコモ home 5G HR01」の価格について、次のように述べています。
「料金については、やはり使い放題、容量無制限ということが大事だと思っている。今回の価格(月額4,950円)は、4000円台、5000円を切ろうと言う感覚で設定した」
「もちろん競争の影響で今後はわからないが、基本的にこの価格はずっと維持したい、ワンプライスでいきたいと考えている」
この発言を聞いて慌てたのが、2021年6月4日に「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」で、「ホームルータープラン5G」をスタートする予定だったauです。
au当初の価格設定
「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の月額プラン「ホームルータープラン5G」の料金は、当初5,458円に設定されていました。
WiMAXは、元々KDDIが出資して2007年に設立した、ワイヤレスブロードバンド企画株式会社が行っていた、携帯電話の電波とは異なる技術です。一口に説明すると、回線スピードは早いけれど、建物の構造・障害物などの影響を受けやすい電波です。
「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」は、名前にも付いている様にWiMAXの電波を利用します。しかし、その電波だけではカバー出来ないエリアもあるため、auの携帯電話の電波4G(LTE)と5Gを利用する事が出来る「プラスエリアモード」を用意しています。しかし、「プラスエリアモード」を利用すると月額料金が1,100円掛かる設定でした。
この時点で単純に月額料金を比較すれば
「ドコモ home 5G HR01」月額4,950円
「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」月額5,458円
になります。
それだけでなく、「ドコモ home 5G HR01」は、docomoの電場がフルに利用出来るワンプランであるのに対して、「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」はプラスエリアモードの利用で1,100円が掛かり、その場合は6,558円になり、更に差が広がります。
この状況を把握したauは、「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の発売を延期して、全ての見直しを余儀なくされます。
auの価格改定
価格の見直しで、「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の月額プラン「ホームルータープラン5G」料金は、4,818円に改定されました。ドコモの料金設定を意地でも下回る姿勢は、ahamoの発表を受けてのpovoの導入時を思い出します。
更に強化を図るべく、「WiMAX +5G はじめる割」を導入しました。25ヵ月間限定ですが、月々550円を割り引くものです。キャンペーンの扱いですが、終了時期は設定されていません。
加えて、1,100円の設定がされていた「プラスエリアモード」の料金も無料になりました。(データ容量制限は15GBに増えましたが、残っています)
現在の月額料金比較
あらためて、「ドコモ home 5G HR01」と「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の月額料金を比較してみましょう。あくまで、2021年10月の価格であり、両者とも今後変更する事も考えられます。
ドコモ home 5G | WiMAX +5G | |
基本月額 1年目 | 4,950円 | 4,268円 |
基本月額 2年目 | 4,950円 | 4,268円 |
基本月額 3年目 | 4,950円 | 4,818円 |
3年間合計金額 | 178,200円 | 160,248円 |
一連のauの動きを見て、docomoがどのように動くかは不明ですが、現時点で料金を比較すると「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の方が安くなります。
キャッシュバック・特典
実際に掛かる費用を考えるだけでなく、契約することで得られる特典・キャッシュバックについても見ていきましょう。
「ドコモ home 5G HR01」
・home 5G お申込みでamazonギフト券プレゼント
GMOとくとくBBサイトにて「home 5G プラン」の新規契約と「HR01」のご購入で18,000円分のamazonギフト券がプレゼントされます。
現金ではなくギフト券ですが、現金と同じように利用出来るため、18,000円のバックがあると考えて以下計算します。
「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」
・UQオンラインショップ限定キャッシュバック
UQオンラインショップでの申込み限定で、新規契約および月額料金の支払口座登録で、10,000円キャッシュバックされます。
これらのキャッシュバックを加味した上で、実際に掛かる月額実質料金を計算してみましょう。
ドコモ home 5G | WiMAX +5G | |
3年間合計金額 | 178,200円 | 160,248円 |
キャッシュバック | 18,000円 | 10,000円 |
3年間実質合計 | 160,200円 | 150,248円 |
実質月額料金 | 4,450円 | 4,173円 |
ちなみに、「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」のキャッシュバックキャンペーンは、一旦終了していましたが、復活させる念の入れようです。
スマートフォンとのセット割
両者ともに、自社のスマートフォンの契約者が「ドコモ home 5G HR01」「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」を契約した場合は、最大1,100円を割り引く設定になっています。
少々残念なのは、docomoはサブブランドが無いので仕方が有りませんが、auはUQ mobileが有り、セット割が効けばdocomoに対して大きなアドバンテージになるのですが、残念ながらUQ mobileには割引き設定がありません。auのみの割引き設定です。
光回線の代替手段として、自宅に据え置き型無線ホームルーターを導入する場合、自宅ではWi-Fi接続を使う為、多くのユーザーが携帯電話会社の回線の利用が減少する事から、データ容量の少ないプランに移行することが合理的です。
事実、「SoftBank Air」では、サブブランドのY!mobileの割引きを行っていて、3GBのプランなら1回線目から月額990円で利用できる様になっていて、大きなメリットになっています。
月額3GB程度までのデータ消費で、家族4人を仮定した、3年間の月額料金のシミュレーションは以下の通りです。
ドコモ home 5G | WiMAX +5G | |
3年間合計金額 | 178,200円 | 160,248円 |
キャッシュバック | 18,000円 | 10,000円 |
3年間実質合計 | 160,200円 | 150,248円 |
実質月額料金 | 4,450円 | 4,173円 |
携帯電話会社 | docomo | au |
携帯電話月額 | 4,015円 | 4,378円 |
携帯家族四人月額 | 11,660円 | 13,112円 |
通信費月額合計 | 16,110円 | 17,285円 |
現在のUQ mobileは、「自宅セット割」を前面に押し出して展開していて、3GBのプランの割引き後の価格は月額990円ですのでドコモやauのスマホと比べると大幅に安くなります。
(出典:UQ mobile公式サイト)
「ドコモ home 5G HR01」「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の制限を比較
無線を使うトラフィックの場合、常識外れの使い方をするユーザーが入る事で、著しく回線品質が悪化するため、光回線には無い制限があるケースが多くなります。
○「ドコモ home 5G HR01」
特に明確に制限容量値は示していませんが、以下の注意書きがあります。
ネットワークの混雑状況により、通信が遅くなる、または接続しづらくなることがあります。また、当日を含む直近3日間のデータ利用量が特に多いお客さまは、それ以外のお客さまと比べて通信が遅くなることがあります。なお、一定時間内または1接続で大量のデータ通信があった場合、長時間接続した場合、一定時間内に連続で接続した場合は、その通信が中断されることがあります。
(出典:docomo公式)
○「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」
WiMAXは、3日間での容量制限を従来から設けています。今までは3日間10GBの制限だったのを、新しい「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」では、15GBに容量制限を変更しています。
auの4G・5G回線を利用する、「プラスエリアモード」は、現状15GBの制限を設けています。WiMAXエリアを利用する分には、この制限はありません。この制限は、実際の動きを見て今後変更される可能性も、充分に考えられます。
「ドコモ home 5G HR01」「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」の本体価格を比較
どちらも据え置き型無線ホームルーター本体を、購入する必要があります。単独で機器を購入することは出来ません。現在契約しているSIMをそのまま利用する事は出来ず、新たな契約(事務手数料3,300円)をすることになります。
本体価格は、次の通りです。
○「ドコモ home 5G HR01」 39,600円 (月々サポートで毎月分割代金分を割引)
(出典:GMOとくとくBB ドコモ home5G)
36回払いを選択すると割引きが受けられて、実質本体価格は無料になります。
○「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」 21,780円
(出典:UQWiMAX公式)
本体価格はdocomoよりも安くなりますが、分割払でも割引制度はありません。
36回払いで、月額605円になります。
その他の違い
かなり両者のスペックは近いです。異なる部分だけを、ピックアップしてみましょう。
通信速度
○「ドコモ home 5G HR01」
5Gと4Gで理論値を分けて掲載しています。
・5G
受信時最大4.2Gbps
送信時最大218Mbps
・4G
受信時最大1.7Gbps
送信時最大131.3Mbps
○「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」
4Gを分けての表示はしていません。5Gの理論値のみ掲載しています。
受信時最大2.7Gbps
送信時最大183Mbps
どちらも、あくまで理論値であり、実際にその速度が出る事は考えられません。5Gはどちらも「ミリ波」には対応していません。実際の使用では、大きな差は基本的に無いと考えられます。
同時接続台数
○「ドコモ home 5G HR01」
有線LAN:1台
Wi-Fi:64台
○「WiMAX Speed Wi-Fi HOME 5G L11」
有線LAN:2台
無線LAN:30台
総台数で比較すればdocomoの圧勝ですが、あまり大きな意味があるとは思えません。現実的に普通の家庭で、30台以上の端末を同時に使う事は考えられません。LANポートが2つある方が、実際の利用には重宝する気もしますね。
まとめ
同じ時期に、5G対応の据え置き型無線ホームルーターを発売することになった両者。お互いの動きを見ながら、今後詳細は変更されることも考えられます。現状はもう少しの間、様子見が賢明です。
待っている時間の無い方は、既に定評がある「SoftBank Air」をオススメします。特に正規代理店で申し込めば、公式キャッシュバックに加えて、代理店独自の特典キャッシュバックも受け取ることが出来ます。
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